7回 卒業論文レジュメ(20021111

「現場から見た住宅改修」        国際学部国際社会学科4年 佐藤美佐子

 

実際に高齢者のための住宅改修に携わっている人に、その活動等について話を聞きたいと考えていた。インターネットを通じて「住まいの改善ネットワーク」というグループがあることを知り、メールでいくつか質問をしてみた。すぐに返事をもらえ、活動の内容や介護保険に対する考え方等を知ることができた。

 

以下は、添付で送っていただいた会報の文章を参考にまとめたものである(抜粋の部分もあり。下線は筆者)。

 

住まいの改善ネットワーク(ホームページ http://www.intersumai.net

     東京都渋谷区を中心に活動する医療・福祉・生活支援・建築のいくつかの団体、事業所、従事者による自主的な協働(協同労働)のグループ

     1994年から活動をはじめ、これまで約700世帯から1000件程度の相談を受け、当事者ごとのチームをつくり住居改善を進めてきた

     現在は年間百数十件程度を約60名のメンバーが当事者ごとにチームを組んで対応している

     住居改善の内容は、ネットワークの事例検討会で報告、意見交換がされるなど、各メンバーとチームの向上に努めている

     事例検討会は2001年までは毎月、現在は隔月で開かれている

 

*介護保険制度の住宅改修給付について*

介護保険との「整合性」で縮小されたの東京都の住宅改造助成制度

 かつて東京都には「高齢者住宅改造費助成事業」があり、各自治体の「上乗せ運用」の結果、一定規模の住居改善を可能にしていました。

 

●〔東京都高齢者住宅改造費助成事業〕旧

・浴室改造  379,000  ・玄関等改造  307,000

・台所改造  177,000円  ・トイレ改造  106,000

・居室改造  490,000円  助成枠合計  1,459,000

 

 20004月からの介護保険の導入に伴い、東京都は、介護保険との整合性を理由に「高齢者住宅改造費助成事業」を廃止し、「高齢者自立支援住宅改修給付事業」を新たに発足させました。

 

●〔高齢者自立支援住宅改修給付事業〕新

・住宅改修予防給付 20万 (介護保険で自立と認定された方が対象)

・住宅設備改修給付 (自立、要支援、要介護に関わらず認定された方が対象)

浴槽の取替え工事  379,000円 流しの取替え等工事 156,000

便器の洋式化等工事 106,000

※介護保険と新制度の給付額合計 841,000

 

「介護保険のもとでの公的な住宅改修給付は、項目も限定され給付枠も縮小され」た

 

 とくに、介護保険の住宅改修給付では、「浴槽の取替え」を対象項目としていないことが問題です。運用面で、「段差の解消」の一局面として認めているに過ぎません。

 もともと「高齢期、傷害にあわせた(バリアフリー)住居改善」では、「浴槽を浅いものに替え安全な入浴をはかる」ことが不可欠の課題です。これは高齢期の家庭内死亡事故が圧倒的に浴槽まわりで起きている事実に注目したものです。

 東京都の旧制度時代にも、「大幅な改造は個人資産となる」「住宅改修給付はあくまで緊急避難」という行政の判断で不充分な改造にとどまるケースが少なくありませんでした。

 介護保険の住宅改修給付の運用内容を見ても、「受益の均衡を考慮し資産形成にかかわらない小規模な工事に限定する」ことが示されています。

 介護保険の「項目限定、20万円枠」は、こうした考えによるものです。

 介護保険とそれに「右にならえ」をして縮小された各自治体での住宅改修給付のもとでは、本当の意味で「在宅を支える」住まいの改善は進んでいないのではないでしょうか。

 

<介護ビジネスのなかに位置付けられた住宅改修給付>

 介護保険の給付枠が小規模となったことは、介護保険をビジネスと考える人たちには、事業化のヒントになったのかもしれません。

 手すりを柱にした小規模なバリアフリー工事はマニュアル化されやすく、一部の業者は「ルートセールス」に似た状況を生み出しているように見えます。

 今年5月の国民生活センターの報告「介護が必要な高齢者のための住宅改修―消費者相談からみた問題点と課題」は、「介護保険による住宅改修を勧誘の入口とし、狙いは高額の工事契約締結という訪問販売をめぐるトラブルが全国で表面化し始めている。」と指摘しています。

 

 

考察

前回のレジュメの時点では、東京都の施策について“在宅での生活の質の確保を明確な目的とし、また、補助限度額を(住宅設備改修給付)改修の種類ごとに設定したり、住宅改修アドバイザーを設けたりと、積極的に取り組んでいこうという姿勢がみえる。”と述べた。しかし、「住まいの改善ネットワーク」の文章を読み、簡単にそう言い切ることはできないのだということが分かった。介護保険の導入に伴ってそれ以前の制度が縮小されていたのであり、“介護保険とそれに「右にならえ」をして縮小された各自治体での住宅改修給付のもとでは、本当の意味で「在宅を支える」住まいの改善は進んでいないのではないでしょうか。”という意見は、まさにその通りだと感じた。

 

介護保険での住宅改修給付についても、「浴槽の取替え」を対象としていないという問題点があるということに気付かされた。「支給限度額20万円」というのも、「資産形成にかかわらない」ために決められたものだった。住宅改修を制度のなかに組み込んだものの、必要な住宅改修が行えない、給付を受けられないというような状況が制度自体によって生み出されているとしたら、それは本当に問題である。

 

 “小規模なバリアフリー工事はマニュアル化されやすく、一部の業者は「ルートセールス」に似た状況を生み出している”という指摘にも納得させられた。住宅改修をめぐってトラブルが起こっているのは、制度にも問題があるからだとは考えていた。しかし、“介護保険の給付枠が小規模となったこと”が、“介護保険をビジネスと考える人たちには、事業化のヒントになったのかもしれません”というのは、よく考えてみればもっともなことであるが、今まで考えつかなかったので、もっと深いところまで考えなければいけないのだと実感した。

 

ただ制度などを調べて机上で考えているだけでは重要な問題点は見えてこないのだと思った。メールでのやりとりとはいえ、実際に現場にいる人(グループ)が活動のなかで感じること、問題点等を知ることができ、本当に勉強になった。もし可能であれば、現場を見る・現場の人に直接話を聞くということをしたいし、やはりそうすることは大切なことなのだと思った。卒論の締め切りまでそれほど時間はないが、できる範囲でやってみたいと思う。